特上の"お鮨"と"おもてなし" 『江戸一』さん
2015.01.23

新湊の海岸近くに店を構えるお鮨屋さん。創業からまもなく38年が経とうとしている。26歳の時に独立し、ずっとこの場所で鮨を握り続けてきたご主人、五十嵐繁久さん64歳。店名の『江戸一』は、10年間修業した東京の鮨屋の名前をつけさせてもらったという。

カウンターにはラミネートが施された敷き紙があり、見るとあるギャラリーが写し出されている。尋ねると、それらの作品は奥さんが手がける『ちりめん細工』とのこと。『ちりめん細工』とは、着物の古布や小さな残り布を縫い合わせ、花や動物、それに人形などを作る伝統手芸で、大きさは手の平にのるものが多いらしい。

店内を見渡すと、所々にも飾られている。なんと繊細で美しい。実は奥さん、専門誌で受賞歴があるほどの腕前なのだが、「出来たときの喜びに魅かれ」て、独学で技術を身につけたという。
その流れで、併設されている住宅内にあるギャラリーを見せてもらうことになった。作品展を開催したときは、3日間で1000人もの人が訪れたという。奥さんよりも、ご主人の方が少し誇らしげに紹介してくれる。それでいて、「そんなにわしは説明できんけど」と言っておられる一連の様子が、互いを認め合い支え合ってきた夫婦像を思い起こさせてくれる。

さらにその流れで、店内ではなく住宅の居間に招かれ、奥さんも一緒にお話を聞かせていただくことになった。
お客さんとのエピソードを探っていくと、驚きの"おもてなし"を提供していることがわかった。
ご主人が、「絶対ではないよ」と笑って前置きしつつも、どうやら時にお客さんの送迎をしてあげているらしい。「少しでも安くしてあげたらいいねか。タクシー代かかるし。その分、一杯でも飲んでって下さいってね」と話す。
海岸近くのお店は、はっきり言って交通の便はよくない。それでも、せっかく選んでくれるお客さんがいる限り、心からのおもてなしで返そうというのだ。地元のお客さんなら、さっとそこまで。その間、店内に他のお客さんを残し、「ちょっとテレビでも見とって」といった具合だ。残されたお客さんだって、その後、送ってもらう身だったりもする。観光客なら、最近では新湊大橋の往復付きで駅まで送ってあげることもしばしば。もちろん奥さんも送迎役を買ってでる。そんなこんなで県外客とも交流は深まり、「年末には新湊のカニを送ってあげたよ」と、サービス精神はどこまでも果てしない。
私もこの日、撮影用のお鮨に加え、立派な新湊のカニを持たせていただきました。そして、「お鮨食べていかんなんとか思わんでいいから、またちりめん細工だけでも見ていってやってよ」とご主人。奥さんへのやさしさ、お客さんへのやさしさ、私へのやさしさ。やさしさが溢れるお鮨屋さんでした。

